自動組版の没落?
日ごろ、印刷業界との方たちと付き合いが多いのです。この業界の仕事は大変で、特にプリプレス工程はお客様の訂正との戦いです。せっかく出来上がったチラシでも、発効日の直前になって訂正の嵐です。何故これほどまでに訂正するのか疑問なくらいです。チラシに限らず、カタログであれパンフレットであれ、最初は何だったのかと思わざるをえません。
こういう業界と付き合いをしながら、自動組版システムを開発していると、通常はシステム開発は作業効率の格段の向上を目指したり、付加価値の工場を目指すのですが、はたしてそれが可能だろうかと思わざるをえません。というのも、ある印刷会社さんのシステムを請負い、自動組版システムを構築しました。システムは順調に動作し、印刷物は完成したのです。かなりのボリュームの印刷物が自動で完成しました。
しかし、この印刷物のカンプをお客様に見て頂いたとき、あえなくゴミになりかけたのです。赤字が入りまくり、デザインの訂正指示が入り、ほぼ全面的なやり直しになったのです。
システム開発は必ず(そうでない場合も極わずかにありますが)、お客様と打ち合わせをし、調査をし、仕様を決めて進行します。契約書も締結して、仕様はこれこれだからこういう内容で開発しますよ、という具合に進行します。進行途中で欲がでてあれこれ追加が入ることがありますが、極端にコンセプトが変わることはありません。しかし、印刷物の場合には、これはかなりの金額の仕事なのですが、契約書がありません。もちろん、仕様書もありません。アバウトな見積書があるだけです。紙の種類や冊数の約束はあるのですが、肝心のコンテンツの約束はありません。
このため訂正の嵐になるのです。自動組版で制作した印刷物であっても事態は同じです。
DTPの罪
80年代の初頭にイスラエルのサイテックスというメーカーからトータルスキャナなるものが登場しました。今までの写真的な方法では絶対不可能だった画像処理がデジタル処理できるようになったのです。これは億単位の価格がする機械でした。その後90年代に入りマッキントッシュの登場で、今まで億単位であったシステムが数十万円でできるようになりました。画期的なことです。更にAdobeがPostScriptを展開するにあたり、印刷業界の現場は一気にデスクトップパブリッシングに突入したのです。ロットリングをもつ職人仕事はマックの前のマウスに変わりました。コンピューターと関係の無かったデザイナが全員マウスを持つようになりました。これは革命的なことでした。
しかし、相変わらず他の分野とは隔絶したままだったのです。他の分野というのは、お客様の、たとえばセールス現場であったり設計現場であったり、製造現場であったりということです。ほぼ同じようなコンピューターが印刷現場とお客様の双方に入っているにもかかわらず、データの互換性がなかったのです。
これはソフト会社からみると異様な状態です。ソフト会社では、お客様のシステムを開発する場合、今までのお客様のデータと互換性をとることに必死になります。販売管理システムのほかに生産管理システムがあれば、何とか双方で連携をとろうとします。現実では互換性がとれないことも多いのですが努力はします。しかし、印刷業界ではサッパリだったのです。
OSの違い、ソフトウェアの違い、フォントの違い・・・・で、今なお連携はスムースではありません。
このため、たとえばチラシのプライスやスペックががお客様の販売管理システムに入っていても、たいていは紙(FAXも)とかせいぜいテキストデータで入る程度です。印刷業界では、最悪の場合には文字の打ち直しをするほどです。ここにDTPの限界がありました。あくまでも『デスクトップ』パブリッシングだったのですね。コミュニケーションパブリッシングではなかったのです。
・他の分野、たとえば建設などではCALSでどんどん互換性が追求されていました。ネットではEDIとか。
自動組版は印刷業界にプラスになるか?
DTPがMaintoshだけの時代(今もその傾向が強いですが)は、QuarkXpressとイラストレーターがダントツアプリでした。Quarkは比較的オープンな仕様をもっていて、プラグインを開発したりAppleScriptで自動処理ができました。ちょっとした自動組版も可能だったのです。私もそれなりに開発しましたし、他社製のプラグインを利用することもありました。定型印刷物はかなり効率化が図れたと思います。
しかし、お客様のデータと隔絶していたことは同じです。CSV程度を受け取ることはありました。が、自動組版して出来上がりカンプをお客様に見せた時点で別世界に突入です。DTPの画面上で訂正したデータはCSVとはかけ離れたものに変形し、あわただしく校了まで進行するのです。
こういう状態を前提にして、自動組版はどれだけ役立つのでしょうか???
今感じるのは、自動組版をもし今までと同じように、仕事を受託してからの処理を高速化するだけの用途で考えると、もしかしたら自動組版はあまり利益に貢献しないのではないか、ということです。なぜなら締め切り直前での訂正に対して、自動組版は有効な手段ではないからです。方正のシステムとかアメリカ製のプラグインとか、色々の配慮があるシステムはありますが、とにかく自動ではないのです。
自動組版よりも更に前を
Adobeがインデザインをリリースするにあたり、今まで聞きなれなかったXMLの機能を搭載してきました。実はモリサワ MCB2などのほうがはるかにXMLそのものだったのですが、誰もが手にするとこのできるDTPシステムでは最初になりました。これはあまりDTP業界ではあまり注目されていなかったのですが、他の業界の一部では、XMLができデータの互換性が図れることで注目されました。他の分野のシステムとDTPアプリケーションがデータ互換性がとれるのです。ただ、XMLそのものを利用してソフト開発をしているところは決して多くはありません。私の友人のソフト会社もあまり使用していません。お客様のXML認知度もいまひとつです。
ただひとついえるのは、ようやくDTPの世界もようやくコミュニケーションパブリッシングの入り口にきたなあ、という感じです。お客様のデータと直接やり取りをしながら印刷物を作成していくプロセスができそうです。特にインターネットを媒介にしてお客様とデータを共有することができれば、間にXMLを利用して、スタートから完成までデータ互換性をもつことが『理論上』可能になります。お客様が自分のデータ上で売価を訂正すれば、印刷物のデータも売価が訂正されるという仕組みです。
こういうことを考えると、実は成功のプロセスは自動組版ではなく、お客様とのコミュニケーションの構築にあることに気づきます。制作業務を楽にするということ(それはそれで大切ですが)よりも、お客様と協同で校正回数を減らしたり伝達の手間を削減する仕組みづくりが成功への王道のようです。